要点まとめ
先使用権(特許法79条)を主張するには、「他社の特許出願日より前に、その技術を実施していた、または実施の準備をしていた」ことを客観的に証明する必要があります。
証明の核心は「日付付きの第三者性のある記録」であり、社内文書だけでは証拠力が弱い場合があります。
タイムスタンプサービスを使えば、技術内容を公開せずに「その日時に存在した」ことを示す証拠を手軽に残せます。
はじめに――「出願するか、しないか」の間で悩む前に
自社で開発した製造プロセスや配合技術を特許出願すべきか迷ったことはありませんか?
出願すれば独占権が得られる一方、出願から原則18か月後には技術内容が公報で公開されます。
競合他社に手の内を明かしたくないノウハウ・営業秘密は、あえて出願しないという選択も十分に合理的です。
しかしその場合、別の不安が頭をよぎります。
「もし他社が同じ技術を先に特許出願して権利化したら、自社が訴えられるのでは?」
そのリスクに備えるのが「先使用権」という制度です。そして先使用権は、主張するだけでは認められません。
「その時点で実施・準備していた」ことを証明できるかどうかが、実務上の最大の勝負どころです。
この記事では、先使用権の証明に必要な証拠の種類と、具体的な準備ステップを解説します。
先使用権とは?――定義と中小企業・スタートアップに必要な理由
先使用権(特許法79条)とは、特許出願前から善意でその発明を実施していた者が、特許権者に対して特許権の効力を受けずに事業を継続できる権利のことである。
大企業は知財部門が大量の特許を出願して防衛します。しかし中小製造業・町工場・スタートアップには、出願費用(1件あたり弁理士費用込みで50〜150万円超が一般的)や、
技術公開のリスクを考えると、すべてを出願するわけにいかない現実があります。
先使用権はその「出願しない技術」を守る最後の砦ですが、いざという時に証明できなければ意味をなしません。日常的な証拠整備が不可欠です。
先使用権を証明する方法――5つのステップ
先使用権の証明で裁判所・特許庁が重視するのは、主に以下の3点です。
- 技術の具体的内容(何を実施・準備していたか)
- 日付の客観性(第三者が証明できる時刻か)
- 事業との関連性(事業として実施・準備していたか)
これらを踏まえ、証拠準備を次の5ステップで進めましょう。
STEP 1|証拠化する「技術の範囲」を決める
まず、「出願せずに秘匿するが、先使用権で守りたい技術」を明確にします。
- 製造プロセスのパラメータ・条件(温度・圧力・時間・材料配合など)
- 設計図・回路図・試作品の仕様書
- 実験データ・測定結果ログ
- ソフトウェアのソースコードやアルゴリズム記述
ポイント: 技術内容は具体的であるほど有利です。「〇〇工程において△△を用いた製法」のように特定できる形でファイルに落としてください。
STEP 2|記録物(証拠ファイル)を作成する
技術内容を文書・図面・データとして保存します。形式はPDF・Word・CADデータ・スプレッドシートなど何でも構いません。
必ず盛り込む情報:
- 技術の具体的な説明(数値・条件・手順)
- 作成者の氏名・部署
- 作成日(後でタイムスタンプで担保するため手書きでも可)
- バージョン番号(改良履歴がわかるように)
STEP 3|ファイルに「第三者性のある日時証明」を付与する
ここが最重要ステップです。社内のファイルサーバに保存しただけでは、「後から作ったのでは?」と疑われる可能性があります。
第三者性のある時刻証明を付与することで、その疑念を排除できます。
代表的な方法を比較します。
| 方法 | 第三者性 | コスト | 手間 |
|---|---|---|---|
| 公証役場への持ち込み | 高い | 1件数千円〜 | 来所・手続き必要 |
| 内容証明郵便(自社宛) | 中程度 | 郵便料金+手数料 | 内容が文字制限あり |
| 認定タイムスタンプサービス | 高い | 月540円〜(stiiの場合) | メール添付のみ |
| 社内サーバの更新日時 | 低い | 無料 | 改ざん容易と疑われやすい |
認定タイムスタンプとは、総務省が認定した時刻認証業務認定事業者が発行するもので、「このファイルが○年○月○日○時○分○秒に存在した」ことを電子的に証明します。
STEP 4|タイムスタンプ済みファイルを安全に保管する
タイムスタンプを付与したファイルと、付与証明(トークン)はセットで保管します。
- バックアップを複数箇所に:社内サーバ+クラウドストレージが推奨
- ファイルを改変しない:タイムスタンプ付与後にファイルを編集するとハッシュ値が変わり、証明が無効になります
- 保管期間は「事業継続期間+余裕」で:特許権の存続期間(出願から20年)を目安に長期保管を検討
STEP 5|「事業として実施・準備していた」ことを示す補完証拠を残す
タイムスタンプは「そのファイルが存在した日時」を証明しますが、「事業として実施・準備していた」という先使用権の要件を満たすには、追加の証拠も有効です。
- 試作品の製造記録・購買伝票・外注注文書
- 社内会議議事録(日付入り、参加者署名)
- 取引先への見積書・提案書(日付スタンプ付き)
- 写真・動画(撮影日時メタデータを保持)
これらとタイムスタンプ済み技術文書を組み合わせることで、証拠の厚みが増します。
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「タイムスタンプが重要なのはわかった。でも専用ソフトの導入や設定は面倒…」
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- 月540円〜(税込):特許出願1件の弁理士費用が数十万円〜100万円超であることを考えると、圧倒的なコスト差です。
- アマノ(AMANO)認証:stii が付与するタイムスタンプは、認定タイムスタンプ事業者「アマノ(AMANO)」のタイムスタンプをライセンスして提供しています。「自社で勝手に時刻を付けている」のではなく、第三者性のある時刻認証に基づく点が、社内管理との最大の違いです。
stii の使い方(3ステップ)
- stii 指定のメールアドレスに、証拠化したいファイルを添付して送信
- stii からタイムスタンプ付きのファイルが返信される
- 返信されたファイルと元ファイルを大切に保管する
以上です。登録手続きも最小限で、すぐに始められます。
つまずきやすい点・注意事項
先使用権の証拠準備で、実務上よく見落とされるポイントをまとめます。
- 「先使用権は自動的に認められる権利ではない」:他社の特許権者から提訴されたとき、自ら主張・立証する必要があります。証拠がなければ主張できません。
- タイムスタンプ単体で先使用権が確定するわけではない:タイムスタンプは「その日時にそのファイルが存在した」ことの証拠手段の一つです。先使用権の成立には、実施の事実・準備の具体性・事業との関連性など複合的な要素が必要です。
- ファイルの内容が曖昧だと意味が薄れる:「試作品のメモ」程度では、具体的な技術内容を証明するには不十分な場合があります。特許請求の範囲に相当するほどの詳細を記載することを意識してください。
- タイムスタンプ後にファイルを編集しない:編集するとハッシュ値が変わり、タイムスタンプとファイルの対応関係が崩れます。改良した場合は新たにタイムスタンプを取得してください。
- 「知っていたはずなのに使わなかった」とみなされるリスク:先使用権の要件には「善意」も含まれます。競合他社の出願状況を定期的にウォッチすることも並行して行いましょう。
- 法律判断は専門家へ:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的判断については弁理士・弁護士にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 先使用権の証明に「タイムスタンプ」は必須ですか?
A. 必須ではありませんが、非常に有力な証拠手段です。公証役場への持ち込みや内容証明郵便でも代替できますが、タイムスタンプは電子ファイルのまま第三者性のある日時証明を付与できるため、技術文書との親和性が高く実務的です。
Q2. タイムスタンプを付けたファイルは何年保存すればよいですか?
A. 特許権の存続期間は出願日から原則20年です。他社が出願するタイミングは事前にわからないため、技術が現役である期間は保管を続けることを推奨します。stii のようなクラウド経由のサービスを使えば、長期保管のコストも低く抑えられます。
Q3. 社内の共有フォルダに保存した日時では証拠になりませんか?
A. ファイルサーバの更新日時は管理者が変更できるため、証拠としての第三者性が弱いとみなされる可能性があります。認定タイムスタンプのような外部の第三者機関が発行する証明との大きな違いです。
Q4. 先使用権が認められた場合、どんな効果がありますか?
A. 他社の特許権者からの差し止め請求・損害賠償請求を退けることができます。ただし、先使用権は「現在の実施形式に限定」される傾向があり、その後に技術を大幅改良した場合には別途評価されることがあります。詳細は弁理士に相談してください。
Q5. stii は個人(フリーランス・個人発明家)でも使えますか?
A. はい、法人・個人を問わずご利用いただけます。月5ファイルまで無料のため、まず無料の範囲でお試しください。
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先使用権に関する法的判断については、弁理士・弁護士にご相談されることをお勧めします。





