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知的財産の侵害ってどんなこと?訴えられるリスクとは

目次

現代のビジネス環境において、知的財産権は企業の重要な資産となっています。特許庁のホームページによると、知的財産権制度とは、人間の幅広い知的創造活動の成果について、その創作者に一定期間の権利保護を与える制度です。この権利が侵害されると、様々なリスクが生じます。本論文では、知的財産権侵害の具体例と、訴えられた場合のリスクについて詳しく検討します。

知的財産の種類と保護される対象

知的財産とは、人間の知的創作活動によって生み出された無形の財産を指し、大きく以下のような分類がある。

  • 著作権:音楽、文章、絵画、プログラムなどの創作物

  • 特許権:新規性・進歩性のある技術的発明

  • 実用新案権:小発明とされる技術的アイデア

  • 意匠権:製品のデザイン(形状・模様・色彩)

  • 商標権:商品・サービスを識別するマークやロゴ、名称など

  • 営業秘密・ノウハウ:企業の業務上の非公開情報(不正競争防止法で保護)

これらの権利は、法律によって保護されており、第三者が無断で使用・模倣した場合には法的責任を問われることになる。

知的財産権侵害行為の具体例

特許権侵害の例

特許権侵害は、特許権者の許可なく特許発明を実施することで発生します。代表的な例として、「切り餅特許侵害事件」があります。この事例では、切り餅の側面に切り込みを入れる特許技術を持つE社が、類似技術を使用していたF社を訴え、約8億円の損害賠償および製造装置の廃棄が命じられました。

特許侵害は製造業だけでなく、ソフトウェアの機能やビジネスモデル特許の分野でも発生しています。

 

商標権侵害の例

商標権侵害の最も一般的な例は「偽ブランド品」の製造・販売です。高級ブランドの商品に似せた偽物を製造・販売する行為は商標法違反となります2

メルカリなどのECサイトでは、「パロディー」「偽物」などと明記していても法律で禁止されているため、出品を禁止しています。また、パロディー商品についても、ブランドのロゴやネーミングを模倣した商品は商標権侵害となる可能性が高いです。

 

著作権侵害の例

著作権侵害は日常的に発生しやすい侵害の一つです。具体的には:

  1. SNSのアイコンとしてネット上の画像を無断で使用する行為

  2. 海賊版サイトから、著作物を違法にダウンロードする行為

  3. テレビ番組や映画を無断でYouTubeにアップロードする行為

平成30年の事例では、高校生がテレビ番組を無断でYouTubeにアップした著作権侵害行為について書類送検されています。

 

その他の知的財産権侵害の例

有名店舗の外観・内装・メニューなどを模倣して同業種で営業する行為も、不正競争防止法違反となる可能性があります。東京地裁平成28年12月19日決定では、某有名コーヒーチェーン店の店舗外観・内装・メニューを模倣した同業他社に対して、使用差し止めの仮処分が認められました。

また、知財高裁令和2年1月29日判決では、某有名テレビゲームのキャラクターを模した衣装やカートなどをレンタルするサービスを提供していた会社に対して、5000万円の損害賠償金の支払いが命じられています。

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知的財産権侵害で訴えられるリスク

差止請求によるリスク

知的財産権を侵害された者は、侵害者に対して「差止請求」を行うことができます。特許法100条に基づく差止請求が認められると、侵害品の製造・販売・輸出などが差し止められ、侵害行為を組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除却なども命じられる可能性があります。

特に製品の中核的な部分に知的財産権侵害があるような場合、改修等による回避が困難で、事業継続そのものが不可能になることもあります。ソフトウェア製品は比較的改修しやすい面がありますが、製品の中核機能に関わる特許侵害の場合は回避が難しく、事業継続が困難になることもあります。

不正競争防止法に違反する不正競争行為に対しても、裁判所での民事手続による救済として、侵害行為等の差止めを求めることができます。

損害賠償請求によるリスク

知的財産権侵害に対しては、権利者から損害賠償を請求されるリスクがあります。損害額の算定方法としては、主に以下の方法があります:

  1. 侵害者が得た利益(限界利益)に基づく算定

  2. ライセンス契約を結んでいた場合に支払うべきだったライセンス料に基づく算定

実際の判例では、高額な賠償金が命じられるケースも少なくありません:

  • キャラクター模倣サービスの事例では5000万円の損害賠償

  • 切り餅特許侵害の事例では約8億円の損害賠償

ソフトウェア製品の場合、変動費が小さく開発費や固定費の比率が大きいため、認められる損害額が売上に対して多額になる可能性があり、また、ソフトウェア製品は工業製品と比較して高めの料率が認定される傾向にあります。

不正競争防止法の場合も、損害額については法律が算定規定を設けており、不正競争行為者に対する損害賠償請求を容易にしています。

信用・風評リスク

知的財産権侵害で訴えられること自体が、企業の信用やブランドイメージに大きな打撃を与えます。特許権侵害は刑事罰もあり得る違法行為であるため、企業の信用や風評が毀損されることがあります10

訴訟がメディアに取り上げられると、たとえ最終的に勝訴したとしても、訴訟中の風評被害により顧客離れや取引先からの信頼低下を招くことがあります。2020東京オリンピックの公式エンブレム問題では、実際には著作権侵害が認められなかったにもかかわらず、風評被害によりエンブレムが変更された事例もあります。

訴訟コストと時間的リスク

知的財産権侵害訴訟は、高額な弁護士費用を必要とします。特許権侵害訴訟などでは、弁護士費用が数千万円にのぼることもあります。

また、訴訟は長期化する傾向があり、地裁から高裁まで続いた場合、2年以上の期間を要することもあります。特に損害賠償請求について争われる場合には、知的財産権の侵害に該当するか否かについて審理された後、侵害に該当する場合には損害額についても審理されるため、訴訟がより長期化する傾向があります。この間、経営資源や人的リソースが訴訟対応に割かれることになり、本業への影響も無視できません。

刑事罰リスク

知的財産権侵害は民事上の責任だけでなく、刑事罰の対象にもなります:

  1. 商標法違反:10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方

  2. 不正競争防止法違反:5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方

特に悪質な場合や故意に知的財産権を侵害した場合は、刑事責任を問われるリスクが高まります。また、近年では役員個人が責任追及を受ける事例も増加しています。

海外での紛争リスク

ソフトウェア製品など海外展開しやすい製品の場合、国内だけでなく海外での訴訟リスクも考慮する必要があります。特許制度は各国で異なるため、それぞれの対応を考える必要があるほか、外国企業が不利になるといわれる地域や、訴訟費用が非常に高額になる地域もあります。

さらに、国際的な知的財産権侵害については、どの国の裁判所が管轄権を持つかという問題も生じます。デジタル環境の発展に伴い、国境を越えた知的財産権侵害が増加しており、厳格な属地主義の原則だけでは対応が難しくなっています。

法的リスクの詳細

刑事罰の内容

  • 特許権侵害:10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(併科可能)

  • 著作権侵害:10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金

  • 商標権侵害:10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金

  • 実用新案権侵害:5年以下の懲役または500万円以下の罰金

法人の場合、3億円以下の罰金刑が科されるケースがあり、税関では侵害物品の没収・廃棄が行われます。

 

民事責任の内容

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侵害を避けるための予防策

社内体制整備

知的財産権侵害のリスクを回避するためには、以下のような対策が有効です:

  1. 事前調査の徹底:製品開発や事業展開の前に、関連する特許権や商標権などの調査を専門家に依頼する

  2. ライセンス契約の活用:他者の知的財産権を使用する場合は、正規のライセンス契約を結ぶ

  3. 知的財産権に関する社内教育:特に研究開発部門やマーケティング部門を中心に定期的な研修を実施する

  4. 「業として」に該当するかの検討:非営利目的の研究であれば特許権侵害に該当しない場合もある

  5. 専門家への相談:知的財産権の侵害であるか疑わしい場合には、弁理士・弁護士に相談する

 

技術的対策

知的財産侵害を未然に防ぐためには、技術的・制度的な対策の両面からアプローチする必要があります。とくにデジタル化が進んだ現代においては、システムやツールを活用した「仕組みで守る」対応が重要視されています。

  1. タイムスタンプ・ブロックチェーンによる証拠確保

    1. 自社の技術やコンテンツが、どの時点で創作されたかを証明するための手段として、タイムスタンプブロックチェーン技術が活用されている。これらは改ざんが困難な形で記録を残せるため、後に争いが起きた際の証拠として大きな効果を発揮する。たとえば、ソースコードや設計図、クリエイティブ作品を保存し、第三者機関のタイムスタンプを付与することで、後発の模倣に対抗できる。

  2. コンテンツ検出ツールの導入

    1. 著作権侵害においては、コピー・盗用の検出ツールが多数存在する。たとえば、Web上のテキストの盗用を検出する「コピペチェックツール」や、画像・音声・動画コンテンツの類似性を検出するAIベースのシステムが広く利用されている。こうしたツールを導入することで、自社の著作物が無断転載されていないかを自動的に監視できる。

  3. 商標・特許の事前調査(クリアランス調査)

    1. 新しい商品名やロゴを使う前には、類似商標が存在しないかを確認する商標クリアランス調査を行う必要がある。同様に、新技術の開発に際しては、**先行技術調査(先行特許調査)**を行うことで、後の特許侵害リスクを低減できる。これらの調査は、専門家に依頼することで精度が高まる。

  4. アクセス制限・社内情報管理の徹底

    1. 意匠やノウハウ、営業秘密に関しては、技術的な情報漏洩対策も重要である。アクセス権の管理、社内ドキュメントの暗号化、ログ管理などを徹底し、社内からの情報流出を未然に防ぐ。情報セキュリティと知財保護は切っても切れない関係にある。

まとめ

知的財産権侵害は、差止請求、高額な損害賠償、企業イメージの低下、訴訟コスト、刑事罰など、多岐にわたるリスクをもたらします。特に現代のデジタル社会では、意図せず他者の知的財産権を侵害してしまう可能性も高まっています。

切り餅特許侵害事件のように8億円もの損害賠償が命じられた例や、有名キャラクターの模倣で5000万円の賠償を命じられた例など、実際の裁判例を見ても、知的財産権侵害のリスクは決して軽視できません。

企業や個人が知的財産権侵害のリスクを回避するためには、事前の権利調査、適切なライセンス契約の締結、社内教育の徹底などの対策が不可欠です。知的財産権に関する正しい知識を持ち、他者の権利を尊重する姿勢が、持続可能なビジネス展開には欠かせません。

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弁理士 木本大介 ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 知財・法務・広報グループ グループ長 2003年、上智大学大学院電気電子工学専攻修了後、株式会社リコーに入社。知的財産部で、複写機を中心とした電気・機械分野の権利化業務に従事。2006年 弁理士登録、特許事務所にて電気・ソフトウェア分野を中心に

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